チャイルド・ペナルティが日本で特段に大きい背景には、親や企業の努力だけでは変えられない制度的・構造的な課題があります。
この章は、日本の公的支援や雇用システムが、ペナルティの解消にまだまだ寄与できていない状況の確認に終始することになるかもしれません。

日本のチャイルド・ペナルティがOECD諸国の中で最も深刻な水準にあることは、多くの研究で指摘されています。
この問題の根本には、公的な「子育て・家族」関連支出の少なさと、市場の要求する無限定な働き方を前提とした雇用制度があります。
具体的には、GDP比で見た家族関係支出はOECD平均を下回っており、「子育ての費用と責任」を公的に社会化するのではなく、「私的な負担」・自己責任に押し付けている構造が最大の原因です。

保育制度は、親の就労継続を支える最も重要なインフラですが、日本では依然として多くの課題を抱えています。
次のような問題や傾向は、これまでも、また現在も、強く指摘されています。

公的支出の少なさ:保育士の低賃金構造を招き、保育の質の維持・向上を困難にしています。
「待機児童」問題:大都市圏や特定の地域では解消されつつありますが、依然として希望する時間帯や質の高い保育施設にアクセスできな「隠れ待機児童」問題が残ります。
地域差の拡大:都市部と地方で、施設の量や質、利用のしやすさに大きな格差が生じています。

日本の税制・社会保険制度の一部は、皮肉にも「母親ペナルティ」を制度的に固定化する要因となっています。
以下のような問題が厳然と存在していることは周知の事実です。

配偶者控除・壁:妻の年収が一定額を超えると、世帯収入が減る可能性がある「年収の壁」が存在しますこれは、特に母親が就労調整を行い、キャリアアップの機会を自ら制限する「働き控え」を誘発します。
「年収の壁」問題は、与野党間の政治的課題としてようやく共通認識になったようですが、いつその壁が取り払われるでしょうか?
性別役割分業の固定化:これらの制度は、夫が主たる稼ぎ手、妻が補助的な稼ぎ手という性別役割分業モデルを前提としており、女性がフルタイムで働くインセンティブを削いでいます。

日本の雇用慣行、特に「メンバーシップ型雇用」は、子育て中の親、特に女性を不利な立場に追いやっています。
その背景や現実の一端を挙げました。

無限定性の要求:第1章で触れた通り、総合職は転勤や長時間労働といった無限定性を前提としており、これが子育てによる制約と両立しません。
非正規雇用の固定化:柔軟な働き方を選択する人々(多くは母親)は、「限定正社員」のような中間的な選択肢が少ないため、そのまま低賃金・不安定な非正規雇用に集中してしまいます。
ジョブ型への移行の遅れ:職務内容を明確にする「ジョブ型雇用」への移行が遅れているため、育児による時間制約があっても、専門スキルに基づいて正当に評価される機会が限定されています。

ただ、メンバーシップ型からジョブ型へという議論と取り組みは、あくまでも大企業に焦点が当てられてのもの。
中小・零細企業で就労する人々には、あまり関係なく、慢性的に人材不足・人手不足です。
その為、非正規雇用に依存せざるを得ない事業所も多いかもしれません。
かつ、オンコールのニーズが多い事業所も多いでしょうか。

子育ての大半は、女性が担っており、ジェンダー規範と通じるところです。
一方、子育て支援策は、「保育」「教育」「福祉」「労働」という複数の行政分野にまたがっています。
その為以下の弊害があると指摘されるのも一般的です。

縦割り行政の弊害:保育(厚労省)、教育(文科省)、そして新しい子ども家庭庁が連携を取りきれず、支援策が分断され、当事者にとって分かりにくく、使いにくいものになっています。
利用者視点の欠如:行政側の都合や予算の都合が優先され、子育て当事者が本当に必要とする切れ目のない支援(例:学童保育と放課後教育の一体化)が実現しにくい状況です。

学校や地域での公的支援体制にも、チャイルド・ペナルティを増幅させる構造的な問題があります。
地域事情や少子化に拠る学童数の減少と学校の統廃合などが間接的に影響する面もあるかもしれません。
また「いじめ」「不登校」対策としての決め手となる対策を見いだせない、打ち出せない現状があります。
以下、主だった問題点を挙げましたが、表層的な感が否めないことをお許しください。

学童保育の質と量:放課後児童クラブ(学童)の待機児童問題や、開設時間の短さ、指導員の専門性不足が、親の長時間労働の足かせとなっています。
学校の貧困対策の遅れ:貧困状態にある子どもへのきめ細やかなサポートや、スクールソーシャルワーカーの配置が十分ではありません。
障害児支援の人手不足:特別支援学級や介助員の人員が不足しており、障害児家庭の負担増につながっています。

チャイルド・ペナルティを取り上げた本稿ですが、経済的視点での親に対するペナルティへの抜本的対策に関しては、特に無力であることを認識しています。
むしろ視点を変えて、子どもが受けるペナルティの改善・解消、保育・教育と福祉とに焦点を当てたテーマにする。
もう一つは、ペナルティの領域・要因を拡大することで「少子化対策」に踏み込む。
その意図があったことを、ここでお伝えしておきたいと思います。
次章のテーマに「少子化対策」を設定しました。

1 2 3

4

5 6

関連記事

ピックアップ記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
CLOSE

Warning: Undefined array key "show_hatena_btm" in /home/onologue2050/lifestagenavi.com/public_html/wp-content/themes/muum_tcd085/footer.php on line 360

Warning: Undefined array key "show_pocket_btm" in /home/onologue2050/lifestagenavi.com/public_html/wp-content/themes/muum_tcd085/footer.php on line 365

Warning: Undefined array key "show_pinterest_btm" in /home/onologue2050/lifestagenavi.com/public_html/wp-content/themes/muum_tcd085/footer.php on line 370