「異次元の少子化対策」を一時は掲げた政府。
現在の高市政権では、「人口戦略本部」を設置し、少子化対策に取り組むことになりそうです。
恐らく、その具体的な議論・政策提案の中で、チャイルド・ペナルティの解消という要素も反映されることになると思われます。
このペナルティが、人々が子どもを持つことをためらう理由の一つであることは、間違いではないでしょう。
しかし、少子化問題は、非常に複雑です。
単純な理由に集約されるものでは当然なく、価値観や行動パターンの多様化に拠る、というワンパターンの理由付けも適切ではありません。
そういう認識を持ちながら、一応一般論的に「少子化問題」とその対策について、以下考えてみることにします。

チャイルド・ペナルティの大きさが、各国の合計特殊出生率と明確な負の相関関係を示しているか?
経済学者のほとんどは、EBMP(Evidense Based Making policy)を重視します。
その前提で、果たして、チャイルド・ペナルティの要素やその比重・大小で、合計特殊出生率への影響度・率を分析できるか?
仮に数値化できても、一人の子どもの出生に関して、複数の要素・要因を合計して1人とみなすことは非現実的です。
また、1万人の子どもの出生中、その比率に当たる人数が、その特定の要素・要因だけで産まれ、他の要因は無関係とすることも疑問です。

そこで、子育ての経済的・時間的負担が重い、すなわち「罰」が大きい国ほど、出生率が低くなるという国際的な傾向について、以下簡単に説明付けしておくことにしましょう。

「時間」の貧困:日本の長時間労働構造は、「子育ての機会費用(コスト)」を極めて高くしています。
子どもと関わる時間的余裕がないことが、二人目以降の出産を諦める大きな要因です。
経済的負担とリスク認知:親の賃金が下がり、非正規雇用に押し込まれるリスク(チャイルド・ペナルティ)が高い国ほど、将来の経済的不安から、子どもを持つ選択をためらいます。
子どもを持つことが「最大の貧困リスク」と認識されている状態です。

これは、子育ての経済的・時間的負担が重い、すなわち「罰」が大きい国ほど、出生率が低くなるという国際的な傾向を裏付けています。

こうした感覚は、納得と感じさせるものですし、調査結果においても有意のデータが得られていることを確認しておくにとどめます。

国際比較は、チャイルド・ペナルティ解消のヒントを与えてくれます。
以下のように、海外の先進事例から学ぶべき点は明確です。

国名主な対策ペナルティへの影響
フランス幼児教育の無償化、充実した低廉な公的保育、第3子以降の手厚い支援女性の就業率が高く、キャリアと両立しやすい
北欧諸国長期かつ夫婦で取得可能な育児休業、高い公的支出、ジェンダー平等の推進ペナルティは存在するが、日本よりは小さい
韓国近年急速に対策を強化中だが、ペナルティは日本と同様に深刻根強い長時間労働と学歴競争がペナルティを増大させている

岸田内閣当時政府が掲げた「異次元の少子化対策」には、「ペナルティ解消」という本質的な視点は欠けていました。
その背景や現実の一端を挙げました。

金銭給付偏重:児童手当の拡充など、金銭的な支援に議論が集中しがちですが、「時間的な貧困」や「キャリアの断絶」という非金銭的なペナルティへの対策が不十分です。
働き方改革との連携不足:長時間労働の是正や男性育休の取得促進といった「働き方改革」と、少子化対策が十分に連携されていません。
「罰」の放置:子育て世帯への経済的・時間的負担を根本的に減らさなければ、いくら給付金を増やしても、子どもを産み育てることへの「ためらい」は解消されません。
いくら「異次元」と言っても、本当の意味での異次元性は望むべきもなく、従来の焼き直し程度にとどまるのは、必然と言えます。

少子化対策をめぐる議論は、結局、「自己責任論」と「社会化論」の間で繰り返されるばかりです。

自己責任論:子育ては個人の選択・努力の問題であり、公的支援は最小限で良いという考え方。
社会化論:次世代育成は社会全体の責務であり、子育ての費用と責任を社会全体で分かち合うべきという考え方。
対立の背景:チャイルド・ペナルティの議論は、この「社会化論」を強く後押しするものであり、個人に負担を押し付ける「自己責任論」との間で常に摩擦が生じています。

そこにおいても、実際にその大半は、女性が担っており、ジェンダー規範と通じるところです。

真の少子化対策は、「時間」と「お金」の両面からペナルティをゼロに近づけることに行き着きます。
こうした課題への取り組みは、日本でもようやく強く認識され、法律や企業サイド独自の取り組みにより、改善されつつあります。

「時間」の保障:親が仕事に縛られず、子どもと過ごす時間、休息する時間を確保できるような労働時間の抜本的短縮が欠かせません。
「お金」の保障:教育・医療・保育など、子育てにかかる公的サービスを無償化・低廉化し、経済的なペナルティを最小化することが必要です。

育児・介護支援法が、拡充強化される動きがその例ですが、それがいきなり少子化に歯止めをかけることなどありえないのも自明です。
根幹には、若い世代の人口減少があります。
それが婚姻数の減少を招き、自ずと出生数の減少に直結する。
高学歴化も要因であることもむろんあります。
ただ、チャイルド・ペナルティ問題の抜本的な解決策としての「時間とお金」対策が、少子化対策においての解決策と相通じることは、確認しておきましょう。

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