2026年5月6日、日経で以下の記事を読んだ。
⇒ (中外時評)給付付き控除、二兎を追う条件 上級論説委員 柳瀬和央 – 日本経済新聞
記事によれば、政府が検討している「給付付き税額控除」は、単なる低所得者支援ではなく、主に2つの目的を同時に達成しようとしているという。
社会保険料負担の軽減
1つ目は、中・低所得層の重い社会保険料負担を和らげること。
現在の日本では、年金や健康保険などの社会保険料負担が大きく、特に子育て世帯や低所得層ほど生活への圧迫感が強くなっている。
そこで、給付金を支給することで、実質的な負担を軽くしようという考え方である。
「年収の壁」を壊し、就労を促進
2つ目は、「106万円の壁」「130万円の壁」対策。
現在の制度では、パート就労の場合、社会保険料負担が発生すると手取りが減るため、働く時間を抑える人がいる。
その負担が発生するかしないかの年間賃金総額の上限額が、2種類あって、多くの人がその枠内での労働時間に収めているわけだ。
前者は、一定の規模以上の事業所で働く人に対するもの。年収額がその額を超えると、厚生年金、健康保険への加入義務が発生し、社会保険料を自分で払う必要が生じる。(現在、その額の変更が決まっているという。)
後者は、その額を超える年収になれば、配偶者控除の適用外になり、自分で保険料を納める義務が生じるため。
そこで、そうした上限を気にせずに働いてもらえるように、その額を超えても一定範囲までは給付金で負担増を補填。
「働くと損」という状態を減らそうというわけだ。
二兎を同時に追うのは難しい
記事は、この2つを両立させる難しさも指摘している。
例えば、
・就労促進を重視すると、高所得世帯の配偶者まで支援対象になりやすい
・公平性を重視して対象を絞ると、「壁」を超えて働く効果が弱くなる
という矛盾が生じると。
新たな壁、「給付額意識の壁」の出現
この制度について私が懸念していること。
以前よりも労働時間を増やして社会保険料負担が増え、一旦手取りが減り、後から徴収されたお金が戻るというのだが、問題はその額だ。
徴収された金額のどの程度が戻ってくるかだ。
全額戻るのなら、初めから納付しなくて済む制度にすればいいのだが、決してそうはならないだろう。
もし期待している金額よりも少ない場合、「働いて損をした」という思いは必ず起きる。
そうなれば、新たな壁に代わっただけということになる。
結局、働き方によって、賃金によって給付額が違ってくるので、いくら戻ってくるか、ということに気が行きがちになる。
これは、「年収○○万円の壁」をモデルチェンジした、別の「壁」ができることを意味する。
いわば「給付額意識の壁」。
正確に言うと「給付額を意識して働き、生活する壁」と言うべきかも。
表現が悪いがやはり「損得勘定」で、もっと働くか、抑えるかを判断することには変わりはないのだ。
一方、手取り減少を本格的に補填しようとすると、必要な財源が半端ないことになる。当然。
結局この記事は、「負担軽減」と「働きやすさ改善」という二兎を追う制度だが、その両立は簡単ではない、と論じているのだ。
日経論説氏は、「二兎を追う」ことの難しさ・課題を、「税の再分配」方法論をベースにし、その対策・方法も加えて述べているが、ここでは省略させてもらう。

英国の給付付き税額控除はどうなったのか|行き着いたUniversal Creditの現状
そこで、実際にこの方式を導入した英国の事情を見てみよう。
同国では、まず、低所得者支援と就労促進を目的に、給付付き税額控除を本格導入したという。
「働いた方が得になる」仕組みを目指したが、実際には多くの問題が発生した。
主な問題は、
・制度が複雑化した
・給付額計算が分かりにくい
・過払い・返還請求が多発した
・働いても給付減で手取り増が小さい
・財政負担が膨らんだ
等の問題が。
良いことがないではないか。
でも、恐らく想定されたことばかりだったのではないか。
特に、「低所得支援」と「就労促進」を同時に実現しようとすると、制度設計が非常に難しくなることが明らかになった。
理念・理想先行欧州のがもたらす、「現実という壁」・「本音という壁」の発生だ。
そのため英国は現在、税額控除だけではなく、失業給付や住宅支援なども含めた「Universal Credit(統合給付制度)」へ移行している。
しかし、こちらの方も、
・手続きの複雑さ
・給付停止問題
・デジタル弱者対応
などの課題を抱えているという。
つまり英国の試みと状況・結果は、「働く人を支援しながら公平性も保つ制度」を作ることが非常に難しいということを示している。

ワークフェア理念の限界
玉木の受け狙い、「ワンワード・スローガン」に乗せられた有権者。
その意味をしっかり理解している人は少なかったはずだが、お金が戻ってきて「手取りが増える」という甘い言葉を信じてしまった。
財務省も、あまりやりたくなかった制度だが、時流と政局を考えるとやむなしという程度の判断。
最低限、働いている人にだけ適用する制度であればいいだろう、という思いもあるかも。
だから、働かない、働けない人にはまったく関係のない制度だ。
本当は、細かいことを言うと「負の所得税」というのも持ち出して、比較すべきなのだが、今回は給付付きだけをテーマに。
まあ、すべての人が満足する社会制度などありえないとは言えるが、この働く人だけを対象とした給付付き税額控除は、もし導入されれば、恐らく不満に思う人々が、いろいろな理由・要因で出てくることは、想像できる。
その対応に相当の労力・コストが必要になることも。
ワークフェア政策の壁である。
ワークフェアや働けない人の社会システムなどについて、以下の記事で触れている。
見て頂ければと。
また、「給付付き税額控除」「負の所得税」などについては、ベーシックインカムと比較する形で、以下の記事で述べているので、ご一覧を。
普遍的制度・包摂的制度としてのシン・ベーシックインカムを臨む
ここまで見てきた「給付付き税額控除」に関する種々想定できた問題点への普遍的で有効な政策、制度。
それは、結局ベーシック・インカムに帰結するだろう。
但し、従来型の議論でのBIでは全くダメ。
現在、種々のBI実現の壁超克シリーズに鋭意取り組んでいるWEBサイト「シン・ベーシックインカム論」の考察を注視して頂きたい!
専用デジタル通貨で個人給付の「シン・ベーシックインカム2050」と関連制度改革の要点
現在、実現の壁となっている要因と対策を考察・提案する作業を進めている日本発のBI「シンBI2050」。
「給付付き税額控除」の問題を超克するBIの要点を以下に簡潔にメモしておきたい。
・すべての所得に対する税額控除制は廃止
・すべての賃金所得に、累進性を含む、所得税課税
・現在の国民年金制度廃止。国民年金保険料はなしに
・厚生年金保険制度は、全面改正し、積み立て制に移行
・生活保護制度は廃止。但し医療費負担に関しては別途制度制定
・住宅コスト問題対応には、別途厚生住宅制度を導入
こうした制度創出と改革により、併せて、大規模な行政改革が行われ、公務エッセンシャルワークにスタッを再配置可能になることも書き添えておきたい。
シンBIの基本フレームについては、以下の記事で確認を。




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